第10章 SDブートの活用

本章では、SDカードから直接起動(以降「SDブート」と表記します)する手順を示します。SDブートを活用すると、SDカードを取り替えることでシステムイメージを変更することができます。本章に示す手順を実行するためには、容量が2GByte 以上のSD カードを必要とします。以下では、例としてDebian GNU/Linux 7(コードネーム wheezy)をSDブートする手順を示しますが、他のOSをSDブートすることも可能です。

[警告]

SDブートを行った場合でも、ブートローダーの設定(保守モードのsetenv/setboodeviceコマンドで設定する項目)についてはSPIフラッシュメモリに保存されます。

SDカードに対する作業は、ATDEで行います。そのため、ATDEにSDカードを接続する必要があります。詳しくは「取り外し可能デバイスの使用」を参照してください。

ATDEにSDカードを接続すると、自動的に/media/ディレクトリにマウントされます。本章に記載されている手順を実行するためには、次のようにSDカードをアンマウントしておく必要があります。

[ATDE ~]$ mount
(省略)
/dev/sdb1 on /media/52E6-5897 type ext2 (rw,nosuid,nodev,relatime,uid=1000,gid=1000,fmask=0022,dmask=0077,codepage=cp437,iocharset=utf8,shortname=mixed,showexec,utf8,flush,errors=remount-ro,uhelper=udisks)
[ATDE ~]$ sudo umount /dev/sdb1

図10.1 自動マウントされたSDカードのアンマウント


本章で使用するブートローダーイメージファイルなどは、評価セット付属の DVD に収録されています。最新版のファイルは、"Armadillo サイト"でダウンロードすることができます。新機能の追加や不具合の修正などが行われているため、DVD に収録されているものよりも新しいバージョンがリリースされているかを確認して、最新バージョンのソースコードを利用することを推奨します。

10.1. ブートディスクの作成

ATDEでブートディスクを作成します。ブートディスクの作成に使用するファイルを次に示します。

表10.1 ブートディスクの作成に使用するファイル

ファイルファイル名
SDブート用ブートローダーイメージloader-armadilloeva1500-[version].bin

SDカードにブートローダーイメージを配置する際、表10.2「ブートディスクの制約」に示す制約があります。本章に示す手順を実行した場合は問題になることはありませんが、独自のブートディスクを作成する場合は注意してください。

表10.2 ブートディスクの制約

項目制約
パーティション番号1
パーティションのシステムタイプ0x83(Linux)
ファイルシステムext2
ブートローダーイメージファイル名sdboot.bin
ブートローダーイメージファイルの配置場所ルートディレクトリ直下

表10.3「ブートディスクの構成例」に示すブートディスクを作成する手順を、手順10.1「ブートディスクの作成例」に示します。

表10.3 ブートディスクの構成例

パーティション番号パーティションサイズファイルシステム説明
1128MByteext2ブートローダーイメージを配置します。
2残り全てext3ルートファイルシステムを構築するためにext3ファイルシステムを構築しておきます。

手順10.1 ブートディスクの作成例

  1. SDブート用のブートローダーイメージファイルを取得します。

    [ATDE ~]$ ls
    loader-armadilloeva1500-[version].bin
  2. SDカードに2つのプライマリパーティションを作成します。

    [ATDE ~]$ sudo fdisk /dev/sdb  1
    
    Command (m for help): o  2
    Building a new DOS disklabel with disk identifier 0x8cb9edcc.
    Changes will remain in memory only, until you decide to write them.
    After that, of course, the previous content won't be recoverable.
    
    Warning: invalid flag 0x0000 of partition table 4 will be corrected by w(rite)
    
    Command (m for help): n  3
    Partition type:
       p   primary (0 primary, 0 extended, 4 free)
       e   extended
    Select (default p):   4
    Using default response p
    Partition number (1-4, default 1):   5
    Using default value 1
    First sector (2048-3862527, default 2048):   6
    Using default value 2048
    Last sector, +sectors or +size{K,M,G} (2048-3862527, default 3862527): +128M  7
    
    Command (m for help): n  8
    Partition type:
       p   primary (1 primary, 0 extended, 3 free)
       e   extended
    Select (default p):   9
    Using default response p
    Partition number (1-4, default 2):   10
    Using default value 2
    First sector (264192-3862527, default 264192):   11
    Using default value 264192
    Last sector, +sectors or +size{K,M,G} (264192-3862527, default 3862527):   12
    Using default value 3862527
    
    Command (m for help): w  13
    The partition table has been altered!
    
    Calling ioctl() to re-read partition table.
    
    WARNING: If you have created or modified any DOS 6.x
    partitions, please see the fdisk manual page for additional
    information.
    Syncing disks.
    [ATDE ~]$ 

    1

    SDカードのパーティションテーブル操作を開始します。USBメモリなどを接続している場合は、SDカードのデバイスファイルがsdcやsddなど本実行例と異なる場合があります。

    2

    新しく空のDOSパーティションテーブルを作成します。

    3

    新しくパーティションを追加します。

    4

    パーティション種別にはデフォルト値(p: プライマリ)を指定するので、そのまま改行を入力してください。

    5

    パーティション番号にはデフォルト値(1)を指定するので、そのまま改行を入力してください。

    6

    開始セクタにはデフォルト値(使用可能なセクタの先頭)を使用するので、そのまま改行を入力してください。

    7

    最終シリンダは、128MByte分を指定します。

    8

    新しくパーティションを追加します。

    9

    パーティション種別にはデフォルト値(p: プライマリ)を指定するので、そのまま改行を入力してください。

    10

    パーティション番号にはデフォルト値(2)を指定するので、そのまま改行を入力してください。

    11

    開始セクタにはデフォルト値(第1パーティションの最終セクタの次のセクタ)を使用するので、そのまま改行を入力してください。

    12

    最終セクタにはデフォルト値(末尾セクタ)を使用するので、そのまま改行を入力してください。

    13

    変更をSDカードに書き込みます。

  3. パーティションリストを表示し、2つのパーティションが作成されていることを確認してください。

    [ATDE ~]$ sudo fdisk -l /dev/sdb
    
    Disk /dev/sdb: 1977 MB, 1977614336 bytes
    61 heads, 62 sectors/track, 1021 cylinders, total 3862528 sectors
    Units = sectors of 1 * 512 = 512 bytes
    Sector size (logical/physical): 512 bytes / 512 bytes
    I/O size (minimum/optimal): 512 bytes / 512 bytes
    Disk identifier: 0x8cb9edcc
    
       Device Boot      Start         End      Blocks   Id  System
    /dev/sdb1            2048      264191      131072   83  Linux
    /dev/sdb2          264192     3862527     1799168   83  Linux
  4. それぞれのパーティションにファイルシステムを構築します。

    [ATDE ~]$ sudo mkfs.ext2 /dev/sdb1  1
    sudo mkfs.ext2 /dev/sdb1 
    mke2fs 1.42.5 (29-Jul-2012)
    Filesystem label=
    OS type: Linux
    Block size=1024 (log=0)
    Fragment size=1024 (log=0)
    Stride=0 blocks, Stripe width=0 blocks
    32768 inodes, 131072 blocks
    6553 blocks (5.00%) reserved for the super user
    First data block=1
    Maximum filesystem blocks=67371008
    16 block groups
    8192 blocks per group, 8192 fragments per group
    2048 inodes per group
    Superblock backups stored on blocks: 
            8193, 24577, 40961, 57345, 73729
    
    Allocating group tables: done                            
    Writing inode tables: done                            
    Writing superblocks and filesystem accounting information: done
    [ATDE ~]$ sudo mkfs.ext3 -L rootfs /dev/sdb2  2
    mke2fs 1.42.5 (29-Jul-2012)
    Filesystem label=rootfs
    OS type: Linux
    Block size=4096 (log=2)
    Fragment size=4096 (log=2)
    Stride=0 blocks, Stripe width=0 blocks
    112448 inodes, 449792 blocks
    22489 blocks (5.00%) reserved for the super user
    First data block=0
    Maximum filesystem blocks=461373440
    14 block groups
    32768 blocks per group, 32768 fragments per group
    8032 inodes per group
    Superblock backups stored on blocks:
    	32768, 98304, 163840, 229376, 294912
    
    Allocating group tables: done
    Writing inode tables: done
    Creating journal (8192 blocks): done
    Writing superblocks and filesystem accounting information: done
    
    [ATDE ~]$

    1

    第1パーティションにext2ファイルシステムを構築します。

    2

    第2パーティションにext3ファイルシステムを構築します。ボリュームラベルには"rootfs"を設定します。

  5. SDブート用のブートローダーイメージファイルを第1パーティションに配置します。

    [ATDE ~]$ ls
    loader-armadilloeva1500-[version].bin
    [ATDE ~]$ mkdir sd  1
    [ATDE ~]$ sudo mount -t ext2 /dev/sdb1 sd  2
    [ATDE ~]$ sudo cp loader-armadilloeva1500-[version].bin sd/sdboot.bin  3
    [ATDE ~]$ sudo umount sd  4
    [ATDE ~]$ rmdir sd  5

    1

    SDカードをマウントするためのsd/ディレクトリを作成します。

    2

    第1パーティションをsd/ディレクトリにマウントします。

    3

    sd/ディレクトリにブートローダーイメージをコピーします。ファイル名は"sdboot.bin"にリネームする必要があります。

    4

    sd/ディレクトリにマウントした第1パーティションをアンマウントします。

    5

    sd/ディレクトリを削除します。

    [警告]

    アンマウントが完了する前にSDカードを作業用PCから取り外すと、SDカードのデータが破損する場合があります。

10.2. ルートファイルシステムの構築

「ブートディスクの作成」で作成したブートディスクにルートファイルシステムを構築します。ルートファイルシステムの構築に使用するファイルを次に示します。

表10.4 ルートファイルシステムの構築に使用するファイル

Linuxディストリビューションファイル名ファイルの説明
Debian GNU/Linuxdebian-wheezy-ae1500-[version].tar.gzARM(armhf)アーキテクチャ用 Debian GNU/Linux 7(コードネーム 「wheezy」)のルートファイルシステムアーカイブ

Debian GNU/Linuxルートファイルシステムアーカイブから、ルートファイルシステムを構築する手順を次に示します。

手順10.2 Debian GNU/Linuxルートファイルシステムアーカイブからルートファイルシステムを構築する

  1. Debian GNU/Linuxルートファイルシステムアーカイブを準備しておきます。

    [ATDE ~]$ ls
    debian-wheezy-ae1500-[version].tar.gz
  2. ルートファイルシステムをブートディスクの第2パーティションに構築します。

    [ATDE ~]$ mkdir sd  1
    [ATDE ~]$ sudo mount -t ext3 /dev/sdb2 sd  2
    [ATDE ~]$ sudo tar zxf debian-wheezy-ae1500-[version].tar.gz -C sd  3
    [ATDE ~]$ sudo umount sd  4
    [ATDE ~]$ rmdir sd 5

    1

    SDカードをマウントするためのsd/ディレクトリを作成します。

    2

    第2パーティションをsd/ディレクトリにマウントします。

    3

    ルートファイルシステムアーカイブをsd/ディレクトリに展開します。

    4

    sd/ディレクトリにマウントしたブートディスクの第2パーティションをアンマウントします。

    5

    sd/ディレクトリを削除します。

    [警告]

    アンマウントが完了する前にSDカードを作業用PCから取り外すと、SDカードのデータが破損する場合があります。

  3. 標準イメージのDebian GNU/Linux 7 ルートファイルシステムは、eMMC パーティション1 をルートファイルシステムとして使用するように設定されています。ルートファイルシステムの配置先を変更する場合は、fstabの設定を修正する必要があります。fstabの設定を、表10.5「ディスクデバイスの割り当て」 を参考に修正します。この例では、SDスロット1(CON6)に接続したSDカードのパーティション2をルートファイルシステムとして使用するように、"/dev/mmcblk0p1"から"/dev/mmcblk1p2"に書き換えています。

    [ATDE ~]$ sudo mount -t ext3 /dev/sdb2 /mnt
    [ATDE ~]# vi /mnt/etc/fstab
    # /etc/fstab: static file system information.
    #
    # Use 'blkid' to print the universally unique identifier for a
    # device; this may be used with UUID= as a more robust way to name devices
    # that works even if disks are added and removed. See fstab(5).
    #
    # <file system> <mount> <type>  <options>                       <dump>  <pass>
    /dev/mmcblk1p2  /               ext3    errors=remount-ro 0     1
    /dev/mtdblock3  /opt/firmware   squashfs exec,ro        0       0
    [ATDE ~]# umount /mnt

    図10.2 fstabの編集


    表10.5 ディスクデバイスの割り当て

    インターフェースディスクデバイス
    eMMC/dev/mmcblk0
    SDスロット1(CON6)/dev/mmcblk1
    SDスロット2(CON4)/dev/mmcblk2

10.3. Linuxカーネルイメージの配置

「ルートファイルシステムの構築」で作成したルートファイルシステムにLinuxカーネルイメージを配置します。Linuxカーネルイメージの配置に使用するファイルを次に示します。

表10.6 ブートディスクの作成に使用するファイル

ファイルファイル名
Linuxカーネルイメージlinux-ae1500-[version].bin.gz

SDカードにLinuxカーネルイメージを配置する際は、次の条件を満たすようにしてください。この条件から外れた場合、ブートローダーがLinuxカーネルイメージを検出することができなくなる場合があります。

表10.7 ブートローダーがLinuxカーネルを検出可能な条件

項目条件
ファイルシステムext2 または ext3
圧縮形式gzip形式 または 非圧縮
Linuxカーネルイメージファイル名(gzip形式)Image.gz, linux.gz, Image.bin.gz, linux.bin.gzのいずれか
Linuxカーネルイメージファイル名(非圧縮)Image, linux, Image.bin, linux.binのいずれか
Linuxカーネルイメージファイルの配置場所/boot/ディレクトリ直下

Linuxカーネルイメージをルートファイルシステムに配置する手順を次に示します。

手順10.3 Linuxカーネルイメージの配置例

  1. Linuxカーネルイメージを準備しておきます。

    [ATDE ~]$ ls
    linux-ae1500-[version].bin.gz
  2. Linuxカーネルイメージをブートディスクの第2パーティションに配置します。

    [ATDE ~]$ mkdir sd  1
    [ATDE ~]$ sudo mount -t ext3 /dev/sdb2 sd  2
    [ATDE ~]$ sudo mkdir -p sd/boot  3
    [ATDE ~]$ sudo cp linux-ae1500-[version].bin.gz sd/boot/Image.bin.gz  4
    [ATDE ~]$ sudo umount sd  5
    [ATDE ~]$ rmdir sd  6

    1

    SDカードをマウントするためのsd/ディレクトリを作成します。

    2

    第2パーティションをsd/ディレクトリにマウントします。

    3

    Linuxカーネルイメージを配置するためのboot/ディレクトリを作成します。

    4

    Linuxカーネルイメージをsd/boot/ディレクトリにコピーします。

    5

    sd/ディレクトリにマウントしたブートディスクの第2パーティションをアンマウントします。

    6

    sd/ディレクトリを削除します。

    [警告]

    アンマウントが完了する前にSDカードを作業用PCから取り外すと、SDカードのデータが破損する場合があります。

10.4. SDブートの実行

「ブートディスクの作成」で作成したブートディスクから起動する方法を説明します。

Armadilloに電源を投入する前に次の準備を行います。

[警告]

SDブートを行う場合は、SD インターフェース(CON6)もしくはSD インターフェース(CON4)の、どちらか一方にだけSDカードを接続してください。 Linuxがルートファイルシステムのマウントを完了した後は、二枚目のSDカードを接続する事ができます。

  1. CON6またはCON4にブートディスクを接続します。

  2. Hermit-Atが保守モードとなるように、機能選択スイッチのHermit-At 起動モード設定(SW2.8)をONに設定します。

  3. SDカードのHermit-Atを起動するように、機能選択スイッチのHermit-At 起動デバイス設定(SW2.7)をOFFに設定します。

  4. CON4からブートする場合は、機能選択スイッチのSD/WLAN 設定(SW2.5)をONの状態で、SDブートデバイス選択スイッチ(SW9)を押下しながら電源を投入します。

「ルートファイルシステムの構築」で構築したルートファイルシステムで起動する場合は、図10.3「ルートファイルシステムの起動設定」のようにsetenvコマンドでLinuxカーネル起動オプションを設定します。rootfsオプションにて指定する値は、表10.5「ディスクデバイスの割り当て」を参考に設定してください。 setenvコマンドの詳細については「Hermit-Atの機能」を参照してください。

hermit> setenv console=ttySC3,115200 mem=1024M noinitrd rootwait root=/dev/mmcblk1p2
hermit> setenv
1: console=ttySC3,115200
2: noinitrd
3: rootwait
4: root=/dev/mmcblk1p2
5: mem=1024M

図10.3 ルートファイルシステムの起動設定


[ティップ]

Linuxカーネル起動オプションを工場出荷状態に戻すには、次のようにコマンドを実行します。

hermit> setenv console=ttySC3,115200 mem=1024M noinitrd rootwait root=/dev/mmcblk0p1

「Linuxカーネルイメージの配置」で配置したLinuxカーネルイメージで起動する場合は、保守モードで図10.4「Linuxカーネルの起動設定」のようにsetbootdeviceコマンドでLinuxカーネルイメージを指定します。bootdeviceの指定は、表10.5「ディスクデバイスの割り当て」 を参照してください。 setbootdeviceコマンドの詳細については「Linuxカーネルイメージの指定方法」を参照してください。

hermit> setbootdevice mmcblk1p2
hermit> setbootdevice
bootdevice: mmcblk1p2

図10.4 Linuxカーネルの起動設定


[ティップ]

起動デバイス設定を工場出荷状態(eMMCから起動)に戻すには、次のようにコマンドを実行します。

hermit> setbootdevice mmcblk0p1