はじめに

このたびは Armadillo-X2 をご利用いただき、ありがとうございます。

Armadillo-X2は、GUIを必要とする機器や映像出力機器などに最適なCPUボードです。 Googleが提供するオープンソースのGUI開発環境「Flutter」に標準対応しており、 モバイルアプリフレームワークを活用することで、容易にGUIアプリケーションを開発できます。 また、エッジAI処理、機械学習を低消費電力で実行する専用のハードウェア機能を搭載しており、 高度な物体認識や情報の識別をおこなうシステムを開発することが可能です。 さらにUSB3.0、Gigabit Ethernet、MIPI-CSIといった高速なインターフェースをそなえ、 高付加価値なシステムの構築に利用いただけます。

Armadillo-X2にはLinuxベースのディストリビューションとして専用設計のArmadillo Base OSを 搭載しています。Armadillo Base OSはユーザーアプリケーションをコンテナとして管理する機能、 Armadillo Base OS自体とコンテナの両方を安全にリモートアップデートする機能、ネットワークや HWセキュリティに関する機能を集約したコンパクトなArmadillo専用OSです。

ユーザーアプリケーションはOCI規格に準拠したPodmanコンテナ内で動作するため、ライブラリの依存関係 はコンテナ内に限定されます。コンテナ内ではDebian Linux やAlpine Linuxといった様々なディストリ ビューションをユーザーが自由に選択し、Armadillo Base OSとは無関係に動作環境を決定、維持する ことが可能です。また、コンテナ内からデバイスへのアクセスはデバイスファイル毎に決定することが できるので、必要以上にセキュリティリスクを高めることなく装置を運用することが可能です。

Armadillo Base OSとユーザーアプリケーションを含むコンテナはどちらも、Armadillo Base OSの リモートアップデート機能で安全にアップデートすることができます。Armadillo Base OSはアップデートの 状態を2面化しているので電源やネットワークの遮断でよって中断してもアップデート前の状態に復旧します。

以降、本書では他の Armadillo ブランド製品にも共通する記述については、製品名を Armadillo と表 記します。

1.1. 本書について

1.1.1. 本書で扱うこと

本書では、Armadillo-X2 の使い方、製品仕様(ソフトウェアおよびハードウェア)、 オリジナルの製品を開発するために必要となる情報、その他注意事項について記載しています。 Linuxあるいは組み込み機器に不慣れな方でも読み進められるよう、 コマンドの実行例なども記載しています。

また、本書では、アットマークテクノが運営するArmadilloサイトをはじめ、 開発に有用な情報を得る方法についても、随時説明しています。

1.1.2. 本書で扱わないこと

本書では、一般的なLinuxのプログラミング、デバッグ方法やツールの扱い方、 各種モジュールの詳細仕様など、一般的な情報や、他に詳しい情報があるものは扱いません。 また、(Armadillo-X2 を使用した)最終製品あるいはサービスに固有な情報や知識も含まれていません。

1.1.3. 本書で必要となる知識と想定する読者

本書は、読者として Armadillo-X2 を使ってオリジナルの機器を開発するエンジニアを想定して 書かれています。また、「Armadillo-X2 を使うと、どのようなことが実現可能なのか」 を知りたいと考えている設計者・企画者も対象としています。 Armadillo-X2 は組込みプラットフォームとして実績のあるArmadilloをベースとしているため、 標準で有効になっている機能以外にも様々な機能を実現することができます。

ソフトウェアエンジニア
端末からのコマンドの実行方法など、基本的なLinuxの扱い方を知っている エンジニアを対象読者として想定しています。プログラミング言語として C/C++を扱えることは必ずしも必要ではありませんが、基礎的な知識がある方 が理解しやすい部分もあります。
ハードウェアエンジニア
電子工学の基礎知識を有したエンジニアを対象読者として想定しています。 回路図や部品表を読み、理解できる必要があります。

1.1.4. 本書の構成

本書には、Armadillo-X2 をベースに、オリジナルの製品を開発するために必要となる情報を記載しています。 また、取扱いに注意が必要な事柄についても説明しています。

本書の章構成は図1.1「製品化までのロードマップ」に示す流れを想定したものとなっています。

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図1.1 製品化までのロードマップ


  • 「システム構成の決定」、「ハードウェア・ソフトウェア設計・開発」

    システムが必要とする要件から使用するクラウド、デバイス、ソフトウェア仕様を決定および、ハードウェアおよびソフトウェアの開発時に必要な情報について、3章開発編で紹介します。

  • 「量産」

    開発完了後の製品を量産する方法について、4章量産編で紹介します。

  • 「設置」、「運用」

    設置時の勘所や、量産した Armadillo を含めたハードウェアを設置し、運用する際に利用できる情報について、5章運用編で紹介します。

また、本書についての概要を1章はじめにに、 Armadillo-X2についての概要を2章製品概要に、 開発〜運用までの一連の流れの中で説明しきれなかった機能についてを、6章応用編で紹介します。

1.1.5. フォント

本書では以下のような意味でフォントを使いわけています。

表1.1 使用しているフォント

フォント例説明

本文中のフォント

本文

[PC ~]$ ls

プロンプトとユーザ入力文字列

text

編集する文字列や出力される文字列。またはコメント


1.1.6. コマンド入力例

本書に記載されているコマンドの入力例は、表示されているプロンプトによって、 それぞれに対応した実行環境を想定して書かれています。 「 / 」の部分はカレントディレクトリによって異なります。 各ユーザのホームディレクトリは「 ~ 」で表します。

表1.2 表示プロンプトと実行環境の関係

プロンプト コマンドの実行環境

[PC /]#

作業用PCの root ユーザで実行

[PC /]$

作業用PCの一般ユーザで実行

[ATDE ~/]#

ATDE上の root ユーザで実行

[ATDE ~/]$

ATDE上の一般ユーザで実行

[armadillo /]#

Armadillo上 Linuxの root ユーザで実行

[armadillo /]$

Armadillo上 Linuxの一般ユーザで実行

[container /]#

Podmanコンテナ内で実行

Armadillo上 U-Bootの保守モードで実行


コマンド中で、変更の可能性のあるものや、環境により異なるものに関しては以下のように表記します。適宜読み替えて入力してください。

表1.3 コマンド入力例での省略表記

表記 説明

[VERSION]

ファイルのバージョン番号


1.1.7. アイコン

本書では以下のようにアイコンを使用しています。

[警告]

注意事項を記載します。

[ティップ]

役に立つ情報を記載します。

[注記]

用語の説明や補足的な説明を記載します。

1.1.8. ユーザー限定コンテンツ

アットマークテクノ Armadilloサイトで購入製品登録を行うと、製品をご購入いただいたユーザーに限定して公開している限定コンテンツにアクセスできるようになります。主な限定コンテンツには、下記のものがあります。

  • 各種信頼性試験データ・納入仕様書等製造関連情報

限定コンテンツを取得するには、「ユーザー登録」を参照してください。

1.1.9. 本書および関連ファイルのバージョンについて

本書を含めた関連マニュアル、ソースファイルやイメージファイルなどの関連ファイルは最新版を使用することをおすすめいたします。本書を読み始める前に、Armadilloサイトで最新版の情報をご確認ください。

1.2. 注意事項

1.2.1. 安全に関する注意事項

本製品を安全にご使用いただくために、特に以下の点にご注意ください。

[警告]
  • ご使用の前に必ず製品マニュアルおよび関連資料をお読みになり、使用上の注意を守って正しく安全にお使いください。
  • マニュアルに記載されていない操作・拡張などを行う場合は、弊社Webサイトに掲載されている資料やその他技術情報を十分に理解した上で、お客様自身の責任で安全にお使いください。
  • 水・湿気・ほこり・油煙等の多い場所に設置しないでください。火災、故障、感電などの原因になる場合があります。
  • 本製品に搭載されている部品の一部は、発熱により高温になる場合があります。周囲温度や取扱いによってはやけどの原因となる恐れがあります。本体の電源が入っている間、または電源切断後本体の温度が下がるまでの間は、基板上の電子部品、及びその周辺部分には触れないでください。
  • 本製品を使用して、お客様の仕様による機器・システムを開発される場合は、製品マニュアルおよび関連資料、弊社Webサイトで提供している技術情報のほか、関連するデバイスのデータシート等を熟読し、十分に理解した上で設計・開発を行ってください。また、信頼性および安全性を確保・維持するため、事前に十分な試験を実施してください。
  • 本製品は、機能・精度において極めて高い信頼性・安全性が必要とされる用途(医療機器、交通関連機器、燃焼制御、安全装置等)での使用を意図しておりません。これらの設備や機器またはシステム等に使用された場合において、人身事故、火災、損害等が発生した場合、当社はいかなる責任も負いかねます。
  • 本製品には、一般電子機器用(OA機器・通信機器・計測機器・工作機械等)に製造された半導体部品を使用しています。外来ノイズやサージ等により誤作動や故障が発生する可能性があります。万一誤作動または故障などが発生した場合に備え、生命・身体・財産等が侵害されることのないよう、装置としての安全設計(リミットスイッチやヒューズ・ブレーカー等の保護回路の設置、装置の多重化等)に万全を期し、信頼性および安全性維持のための十分な措置を講じた上でお使いください。
  • 電池をご使用の際は、極性(プラスとマイナス)を逆にして装着しないでください。また、電池の使用推奨期限を過ぎた場合やRTCの時刻を保持できなくなった場合には、直ちに電池を交換してください。そのまま使用すると、電池が漏液、発熱、破裂したり、ケガや製品の故障の原因となります。万一、漏れた液が身体に付着した場合は多量の水で洗い流してください。
  • 無線LAN機能を搭載した製品は、心臓ペースメーカーや補聴器などの医療機器、火災報知器や自動ドアなどの自動制御器、電子レンジ、高度な電子機器やテレビ・ラジオに近接する場所、移動体識別用の構内無線局および特定小電力無線局の近くで使用しないでください。製品が発生する電波によりこれらの機器の誤作動を招く恐れがあります。

1.2.2. 取扱い上の注意事項

本製品に恒久的なダメージをあたえないよう、取扱い時には以下のような点にご注意ください。

破損しやすい箇所
MIPI-CSI、HDMI、USBコンソールのコネクタは、破損しやすい部品になっています。無理に力を加えて破損することのないよう十分注意してください。
設置時の注意事項
人が触れて感電することが無いように 安全な場所に危険のないように設置してください。
発熱に関する注意事項
標準筐体は、筐体内部の熱を逃がす放熱板としての機能があるため内部温度上昇により高温になる場合があります。他の機器と重ねたり、付近に熱に弱い物体を近付けないでください。また、付近に他の熱源がある場合には、筐体を通して熱が伝わり筐体内部が発熱する可能性があるため、他の熱源からは遠ざけるように設置してください。
本製品の改造
本製品に改造[1]を行った場合は保証対象外となりますので十分ご注意ください。また、改造やコネクタ等の増設[2]を行う場合は、作業前に必ず動作確認を行ってください。
電源投入時のコネクタ着脱
本製品や周辺回路に電源が入っている状態で、活線挿抜対応インターフェース(LAN、USB、SD、HDMI) [3]以外へのコネクタ着脱は、絶対に行わないでください。
静電気
本製品にはCMOSデバイスを使用しており、静電気により破壊されるおそれがあります。本製品を開封するときは、低湿度状態にならないよう注意し、静電防止用マットの使用、導電靴や人体アースなどによる作業者の帯電防止対策、備品の放電対策、静電気対策を施された環境下で行ってください。また、本製品を保管する際は、静電気を帯びやすいビニール袋やプラスチック容器などは避け、導電袋や導電性の容器・ラックなどに収納してください。
ラッチアップ
電源および入出力からの過大なノイズやサージ、電源電圧の急激な変動等により、使用しているCMOS デバイスがラッチアップを起こす可能性があります。いったんラッチアップ状態となると、電源を切断しないかぎりこの状態が維持されるため、デバイスの破損につながることがあります。ノイズの影響を受けやすい入出力ラインには、保護回路を入れることや、ノイズ源となる装置と共通の電源を使用しない等の対策をとることをお勧めします。
衝撃
落下や衝撃などの強い振動を与えないでください。
使用場所の制限
無線機能を搭載した製品は、テレビ・ラジオに近接する場所で使用すると、受信障害を招く恐れがあります。
振動
振動が発生する環境では、Armadilloが動かないよう固定して使用してください。
電池の取り扱い
電池の使用推奨期限を過ぎる前に電池の交換をしてください。使用推奨期限を超えて使用すると、電池の性能が充分に発揮できない場合や、電池を漏液させたり、製品を破損させるおそれがあります。

1.2.3. 製品の保管について

[警告]
  • 製品を在庫として保管するときは、高温・多湿、埃の多い環境、 水濡れの可能性のある場所、直射日光のあたる場所、有毒ガス (特に腐食性ガス) の発生する場所を避け、精密機器の保管に適した状態で保管してください。
  • 保管環境として推奨する温度・湿度条件は以下のとおりです。

表1.4 推奨温湿度環境について

推奨温湿度環境

5〜35°C/70%RH 以下[a] [b]

[a] 半田付け作業を考慮した保管温度範囲となっております。半田付けを行わない、または、すべての半田付けが完了している場合の推奨温度・湿度条件は、製品の動作温度・湿度範囲となります。

[b] 温度変化の少ない場所に保管してください。保管時の急激な温度変化は結露が生じ、金属部の酸化、腐食などが発生し、はんだ濡れ性に影響が出る場合があります。


  • 製品を包装から取り出した後に再び保管する場合は、帯電防止処理された収納容器を使用してください。

1.2.4. ソフトウェア使用に関しての注意事項

本製品に含まれるソフトウェアについて

本製品の標準出荷状態でプリインストールされているLinux対応ソフトウェアは、個別に明示されている(書面、電子データでの通知、口頭での通知を含む)場合を除き、オープンソースとしてソースコードが提供されています。再配布等の権利については、各ソースコードに記載のライセンス形態にしたがって、お客様の責任において行使してください。また、本製品に含まれるソフトウェア(付属のドキュメント等も含む)は、現状有姿(AS IS)にて提供します。お客様ご自身の責任において、使用用途・目的の適合について事前に十分な検討と試験を実施した上でお使いください。アットマークテクノは、当該ソフトウェアが特定の目的に適合すること、ソフトウェアの信頼性および正確性、ソフトウェアを含む本製品の使用による結果について、お客様に対し何らの保証も行いません。

パートナー等の協力によりArmadilloブランド製品向けに提供されているミドルウェア、その他各種ソフトウェアソリューションは、ソフトウェア毎にライセンスが規定されています。再頒布権等については、各ソフトウェアに付属するreadmeファイル等をご参照ください。その他のバンドルソフトウェアについては、各提供元にお問い合わせください。

[ティップ]

以下のソフトウェアは、オープンソースソフトウェアではありません。

ボード情報取得ツール(get-board-info)

1.2.5. 電波障害について

[警告]

この装置は、クラス B 情報技術装置です。この装置は、住宅環境で使用することを目的としていますが、 この装置がラジオやテレビジョン受信機に近接して使用されると、 受信障害を引き起こすことがあります。取扱説明書に従って正しい取り扱いをしてください。 VCCI-B

1.2.6. 保証について

本製品の本体基板は、製品に添付もしくは弊社Webサイトに記載している「製品保証規定」に従い、ご購入から1年間の交換保証を行っています。添付品およびソフトウェアは保証対象外となりますのでご注意ください。

また、製品を安心して長い期間ご利用いただくために、保証期間を 2 年または 3 年間に延長できる「延長保証サービス」をオプションで提供しています。 詳細は「製品保証サービス」を参照ください。

1.2.7. 輸出について

  • 当社製品は、原則として日本国内での使用を想定して開発・製造されています。
  • 海外の法令および規則への適合については当社はなんらの保証を行うものではありません。
  • 当社製品を輸出するときは、輸出者の責任において、日本国および関係する諸外国の輸出関連法令に従い、必要な手続を行っていただきますようお願いいたします。
  • 日本国およびその他関係諸国による制裁または通商停止を受けている国家、組織、法人または個人に対し、当社製品を輸出、販売等することはできません。
  • 当社製品および関連技術は、大量破壊兵器の開発等の軍事目的、その他国内外の法令により製造・使用・販売・調達が禁止されている機器には使用することができません。

1.2.8. 商標について

  • Armadillo は株式会社アットマークテクノの登録商標です。その他の記載の商品名および会社名は、各社・各団体の商標または登録商標です。™、®マークは省略しています。
  • SD、SDHC、SDXC、microSD、microSDHC、microSDXC、SDIO ロゴはSD-3C, LLCの商標です。
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  • HDMI、HDMI ロゴ、High-Definition Multimedia Interface は HDMI Licensing, LLC の登録商標です
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1.3. 謝辞

Armadillo で使用しているソフトウェアの多くは Free Software / Open Source Software で構成されています。Free Software / Open Source Software は世界中の多くの開発者の成果によってなりたっています。この場を借りて感謝の意を表します。



[1] 本書を含めた関連マニュアルで改造方法を記載している箇所および、コネクタ非搭載箇所へのコネクタ等の増設は除く。

[2] 改造やコネクタを増設する際にはマスキングを行い、周囲の部品に半田くず、半田ボール等付着しないよう十分にご注意ください。

[3] 別途、活線挿抜を禁止している場合を除く