本章では、Armadillo-640 のソフトウェアをカスタマイズする方法などについて説明します。
Device Treeとは、ハードウェア情報を記述したデータ構造体です。ハードウェアの差分をDevice Treeに記述することによって、1つのLinuxカーネルイメージを複数のハードウェアで利用することができるようになります。
Device Treeに対応しているメリットの1つは、ハードウェアの変更に対するソフトウェアの変更が容易になることです。例えば、拡張インターフェース1(CON9)に接続する拡張基板を作成した場合、主にC言語で記述されたLinuxカーネルのソースコードを変更する必要はなく、やりたいことをより直感的に記述できるDTS(Device Tree Source)の変更で対応できます。
ただし、Device Treeは「データ構造体」であるため、ハードウェアの制御方法などの「処理」を記述することができない点に注意してください。Device Treeには、CPUアーキテクチャ、RAMの容量、各種デバイスのベースアドレスや割り込み番号などのハードウェアの構成情報のみが記述されます。
Device Treeのより詳細な情報については、Linuxカーネルのソースコードに含まれているドキュメント(Documentation/devicetree/
)、devicetree.orgで公開されている「Device Tree Specification」を参照してください。
Linuxカーネルのソースコードに含まれている初期出荷状態でのDTS、及び関連するファイルを次に示します。
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初期出荷状態でのDTS、及び関連するファイル
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arch/arm/boot/dts/armadillo-640.dts
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arch/arm/boot/dts/imx6ull.dtsi
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arch/arm/boot/dts/imx6ul.dtsi
コンフィギュレーションを変更してLinuxカーネルイメージをカスタマイズする方法を説明します。
Linuxカーネルアーカイブの展開
Linuxカーネルのソースコードアーカイブを準備し、Linuxカーネルのソースコードアーカイブを展開します。
[PC ~]$ ls
initramfs_a600-[version].cpio.gz linux-v4.14-at[version].tar.gz
[PC ~]$ tar xf linux-v4.14-at[version].tar.gz
[PC ~]$ ls
initramfs_a600-[version].cpio.gz linux-v4.14-at[version] linux-v4.14-at[version].tar.gz
initramfs アーカイブへのシンボリックリンク作成
Linux カーネルディレクトリに移動して、initramfs アーカイブへのシンボリックリンク作
成します
[PC ~]$ cd linux-v4.14-at[version]
[PC ~/linux-v4.14-at[version]]$ ln -s ../initramfs_a600-[version].cpio.gz initramfs_a600.cpio.gz
コンフィギュレーション
コンフィギュレーションをします。
[PC ~/linux-v4.14-at[version]]$ make ARCH=arm armadillo-640_defconfig
[PC ~/linux-v4.14-at[version]]$ make ARCH=arm menuconfig
カーネルコンフィギュレーションの変更
カーネルコンフィギュレーションを変更後、"Exit"を選択して「Do you wish to save your new kernel configuration ? <ESC><ESC> to continue.」で"Yes"とし、カーネルコンフィギュレーションを確定します。
.config - Linux/arm 4.14-at1 Kernel Configuration
------------------------------------------------------------------------------
----------------- Linux/arm 4.14-at1 Kernel Configuration -----------------
Arrow keys navigate the menu. <Enter> selects submenus ---> (or empty
submenus ----). Highlighted letters are hotkeys. Pressing <Y>
includes, <N> excludes, <M> modularizes features. Press <Esc><Esc> to
exit, <?> for Help, </> for Search. Legend: [*] built-in [ ]
-----------------------------------------------------------------------
General setup --->
[ ] Enable loadable module support ----
[*] Enable the block layer --->
System Type --->
Bus support --->
Kernel Features --->
Boot options --->
CPU Power Management --->
Floating point emulation --->
Userspace binary formats --->
Power management options --->
[*] Networking support --->
Device Drivers --->
Firmware Drivers --->
File systems --->
Kernel hacking --->
Security options --->
-*- Cryptographic API --->
Library routines --->
[ ] Virtualization ----
-----------------------------------------------------------------------
---------------------------------------------------------------------------
<Select> < Exit > < Help > < Save > < Load >
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Linux Kernel Configurationメニューで"/"キーを押下すると、カーネルコンフィギュレーションの検索を行うことができます。カーネルコンフィギュレーションのシンボル名(の一部)を入力して"Ok"を選択すると、部分一致するシンボル名を持つカーネルコンフィギュレーションの情報が一覧されます。 |
ビルド
[PC ~/linux-v4.14-at[version]]$ make ARCH=arm CROSS_COMPILE=arm-linux-gnueabihf- LOADADDR=0x82000000 uImage
[PC ~/linux-v4.14-at[version]]$ make ARCH=arm CROSS_COMPILE=arm-linux-gnueabihf-
イメージファイルの生成確認
ビルドが終了すると、arch/arm/boot/ディレクトリと、arch/arm/boot/dts/以下にイメージファイル(LinuxカーネルとDTB)が作成されています。
[PC ~/linux-v4.14-at[version]]$ ls arch/arm/boot/uImage
uImage
[PC ~/linux-v4.14-at[version]]$ ls arch/arm/boot/dts/armadillo-640.dtb
armadillo_640.dtb
18.3. ルートファイルシステムへの書き込みと電源断からの保護機能
Armadillo-640のルートファイルシステムは、標準でeMMCに配置されます。
Linuxが稼働している間は、ログや、設定ファイル、各種アプリケーションによるファイルへの書き込みが発生します。もし、停電等で終了処理を実行できずに電源を遮断した場合は、RAM上に残ったキャッシュがeMMCに書き込まれずに、ファイルシステムの破綻やファイルの内容が古いままになる状況が発生します。
また、eMMC内部のNAND Flash Memoryには消去回数に上限があるため、書き込み回数を制限することを検討する必要がある場合もあります。
そこで、Armadillo-640 では、overlayfsを利用して、eMMCへの書き込み保護を行う機能を提供しています。
eMMCへの書き込み保護を行うには、kernelの起動オプションに"overlay=50%"("=50%"は省略可、"overlay"のみ書くとRAMの50%を使用)というパラメータを追加するだけです。
パラメータを追加すると、debianの起動前にinitramfsよってルートファイルシステムがupper=RAMディスク(tmpfs)、lower=eMMC(ext4)としたoverlayfsに切り替えられて、Debianが起動します。
overlayfsの機能によって、起動後のルートファイルシステムに対する差分は、全てRAMディスク(/overlay/ramdiskにマウント)に記録されるようになります。そのため、起動後の情報は保存されませんが、電源を遮断した場合でも、eMMCは起動前と変わらない状態のまま維持されています。
kernelの起動オプションの指定を行うにはArmadillo-640を保守モードで起動し、次のようにコマンドを実行してください。
=> setenv optargs overlay
=> saveenv
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overlayfsによる、eMMCへの書き込み保護は linux-4.14-at5, u-boot-a600-v2018.03-at3 から対応しています。 |
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overlayfs は差分を ファイル単位で管理するため、予想以上にRAMディスクを消費する場合があります。 単に、新しいファイルやディレクトリを作れば、その分RAMディスクが消費されるのは想像に難くないと思います。 しかし、「lower=eMMC に既に存在していたファイルの書き換え」をする場合は、upper=RAMディスク に対象のファイル全体をコピーして書き換え」ます。 具体的に、問題になりそうな例を紹介します。 例えば、sqlite はDB毎に1つのファイルでデータ格納します。ここで、1GBのDBを作ってeMMCに保存した後、 overlayfsによる保護を有効にして起動した後に、たった10バイトのレコードを 追加しただけでRAMディスクは 1GB + 10バイト 消費されます。実際には、 Armadilloに1GBもRAMは無いので、追記を開始した時点でRAMディスクが不足します。 |
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overlayfsによる、eMMCへの書き込み保護を行う場合、 必ず実際の運用状態でのテストを行い、RAMディスクが不足しないか確認してください。 動作中に書き込むファイルを必要最小限に留めると共に、追記を行う大きなファイルを作らない実装の検討を行ってください。 |
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Armadillo-640のeMMCの記録方式は出荷時にSLCに設定しており、MLC方式のeMMCよりも消去回数の上限が高くなっています。そのため、開発するシステムの構成によってはeMMCへの書き込み保護機能を必要としない可能性があります。 |
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eMMCへの書き込み保護機能を有効にすると、eMMCを安全に使用できるというメリットがありますが、その分、使用できるRAMサイズが減る、システム構成が複雑になる、デメリットもあります。 開発・運用したいシステムの構成、eMMCへの書き込み保護機能のメリット・デメリットを十分に考慮・評価したうえで、保護機能を使用する、しないの判断を行ってください。 |