開発環境の構築と基本操作

7.1. ATDE (Atmark Techno Development Environment) とは

これまでに説明したように、ArmadilloはARMプロセッサを搭載したコンピュー ターです。対して、作業用PCは、一般にx86(i386)またはx86_64(amd64)互換アー キテクチャのプロセッサを搭載しています。そのため、単純に作業用PCでアプ リケーションの(C言語)ソースコードを作成しコンパイルしても、Armadillo上 で動作する実行ファイルを得ることはできません。このように、アプリケーショ ンをコンパイルするコンピューター(ホストコンピューター)のアーキテクチャと、 アプリケーションを実行するコンピューター(ターゲット)のアーキ テクチャが異なる場合を、クロス開発といいます。

クロス開発には、ターゲットのアーキテクチャごとに専用のクロスコンパイラ やリンカ、アセンブラなどのクロス開発用ツールチェインが必要です。当然、 ライブラリもターゲット用のものを用意しなければなりません。また、組み込 み開発では、フラッシュメモリの書き換え手段も必要となります。フラ ッシュメモリに書き込むためのイメージファイルを作成するツールも必要でし ょう。これらのクロス開発用の開発環境を作成することは、一般に手間のかか ることです。クロス開発環境を構築しようとして、既存の環境を壊してしまい 、OSから再インストールという事態に陥った方もいるのではないでしょうか。

Debian GNU/LinuxをベースにArmadilloに必要なクロス開発環境を構築し、仮想マシンのイメージとしたものがATDEです。

[注記]仮想マシンとは

物理的なコンピューター上で「論理的なコンピューター」を動作させることを「(コンピューターの)仮想化」と言います。 例えば、Windows PC上で仮想化ソフトウェアを起動し、論理的なコンピューターを作成することで、Linuxを使用したりすることができます。 この論理的なコンピューターのことを一般的には「仮想マシン」や「VM(Virtual Machine)」といいます。

以降の説明で使う言葉

  • ホストOS

    物理的なコンピューターで動作するOS。 本書では引き続き、物理的なコンピューターを「作業用PC」と表記します。 「ホストOS」は作業用PCに直接インストールされているWindowsやLinuxを指します。

  • ゲストOS

    仮想マシンで動作するOS。 本書ではATDEがゲストOSにあたるため、「ATDE」と表記します。

[注記]開発環境が仮想マシンであるメリット

仮想マシンの情報はすべてファイルとして管理されています。 そのため、あるプロジェクトで使用した仮想マシンのファイルを保存しておけば、 プロジェクト終了後に保守しなければいけない状況になった時でも、環境の再現が簡単にできます。

また、ファイルをコピーするだけで環境を複製することができます。 複数の作業用PCに環境を作成しなければならない場合に、一つのPCで環境を作成し、他のPCにファイルをコピーすることで、簡単に同じ環境を再現できます。

ATDEが動作する仮想化ソフトウェアは以下の二つです。

  1. VMware Workstation 15 Player

    • 商用利用は有償です。
  2. Oracle VM VirtualBox 6

    • Mac OS Xにも対応しています。
    • VMwareのイメージを起動することができます。
    • フリーソフトですが、商用利用で「Oracle VM VirtualBox Extension Pack」の機能を使用する場合は「Oracle VM VirtualBox Enterprise」のライセンス購入が必要です。[43]

      • インストールしない場合、USB3.0以降に対応しているポートとデバイスの組み合わせではゲストOSから認識不可となります。
      • ポートとデバイスのどちらかがUSB2.0までの対応の場合、USB1.1デバイスとして認識されるようです。
    • Armadilloとの通信のため、ネットワークアダプタの設定は「割り当て」を「ブリッジアダプター」に変更する必要があります。

本書ではVMwareを使用します。

7.2. ATDEのセットアップ

VMwareのインストール方法と、ATDEの実行、設定、運用方法について説明します。

必要な作業は、大きく分けると3つあります。 . VMwareのインストール . ATDEアーカイブの取得 . ATDEアーカイブの展開

7.2.1. VMware Workstation 15 Player のインストール

ATDEを使用するために、まず作業用PCにVMwareをインストールします。 商用利用の場合は、ライセンスを購入する必要があります。

下記リンクから購入・ダウンロードできます。

https://www.vmware.com/jp/products/workstation-player.html

VMwareを起動後、購入したライセンスを入力してください。

[警告]

作業用PCがVMwareの動作要件を満たしているか確認してください。 なお、ATDE7は32bit OSです。

参考

7.2.2. ATDEアーカイブの取得

Armadillo-640用の対応バージョンである「ATDE7」のアーカイブを下記リンクからダウンロードしてください。

https://armadillo.atmark-techno.com/atde

7.2.3. ATDEアーカイブの展開

ATDEのアーカイブを展開します。ATDEのアーカイブは、tar.xz形式の圧縮ファイルです。

Windowsでの展開方法を「Windowsでの展開」に、Linuxでの展開方法を手順「Linuxでの展開」に示します。

7.2.3.1. Windowsでの展開

  1. 7-Zipのインストール

    7-Zipをインストールします。7-Zipは、圧縮解凍ソフト 7-Zipのサイト(http://sevenzip.sourceforge.jp)からダウンロード取得可能です。

  2. xz圧縮ファイルの展開

    エクスプローラーでダウンロードしたディレクトリを開きます。

    ダウンロードしたディレクトリ

    図7.1 ダウンロードしたディレクトリ


    ATDEのアーカイブを右クリックし、「7-Zip」-「ここに展開」をクリックします。

    アーカイブの展開

    図7.2 アーカイブの展開


    展開してできた.tarファイルを右クリックし、「7-Zip」-「ここに展開」をクリックします。 画像のように atde7-i386-[version] ディレクトリができます。

    作成されたディレクトリ

    図7.3 作成されたディレクトリ


    ディレクトリの中には展開されたファイルがあります。

    展開されたファイル

    図7.4 展開されたファイル


    アーカイブファイル(.tar.xz、.tar)は削除しても構いません。

7.2.3.2. Linuxでの展開

  1. tar.xz圧縮ファイルの展開

    tarxf オプションを使用して tar.xz 圧縮ファイルを展開します。

    [PC ~]$ tar xf atde7-i386-[version].tar.xz
  2. 展開の完了確認

    tar.xz圧縮ファイルの展開が終了すると、ATDEアーカイブの展開は完了です。 atde7-i386-[version] ディレクトリにATDEのデータイメージが出力されています。

    [PC ~]$ ls atde7-i386-[version]/
    atde7-i386-s001.vmdk  atde7-i386-s009.vmdk  atde7-i386-s017.vmdk
    atde7-i386-s002.vmdk  atde7-i386-s010.vmdk  atde7-i386.nvram
    atde7-i386-s003.vmdk  atde7-i386-s011.vmdk  atde7-i386.vmdk
    atde7-i386-s004.vmdk  atde7-i386-s012.vmdk  atde7-i386.vmsd
    atde7-i386-s005.vmdk  atde7-i386-s013.vmdk  atde7-i386.vmx
    atde7-i386-s006.vmdk  atde7-i386-s014.vmdk  atde7-i386.vmxf
    atde7-i386-s007.vmdk  atde7-i386-s015.vmdk
    atde7-i386-s008.vmdk  atde7-i386-s016.vmdk

7.3. ATDEの起動

VMwareのホーム画面で「仮想マシンを開く」を押し、先ほど展開した atde7-i386.vmx (仮想マシン構成)を開くと仮想マシンが追加されます。 追加された仮想マシンをダブルクリックするとATDEが起動します。 下のダイアログが出た場合は、「コピーしました」を押してください。

VMwareのダイアログ

図7.5 VMwareのダイアログ


VMware Toolsのインストールを促すダイアログが出た場合は、「ダウンロードしてインストール」を押し、最新のVMware Toolsをインストールしてください。

VMwareのダイアログ

図7.6 VMwareのダイアログ


ATDE7にログイン可能なユーザーを、表7.1「ユーザー名とパスワード」に示します [44]

表7.1 ユーザー名とパスワード

ユーザー名パスワード権限

atmark

atmark

一般ユーザー

root

root

特権ユーザー


[ティップ]

ATDEに割り当てるメモリおよびプロセッサ数を増やすことで、ATDEをより快適に使用することができます。仮想マシンのハードウェア設定の変更方法については、VMware社 Webページ(http://www.vmware.com/)から、使用しているVMwareのドキュメントなどを参照してください。

7.4. ATDEの終了

ATDEを終了する方法は3つあります。

  • ATDEの電源オフ

    ATDEの通常の終了方法です。 ATDEの更新時や、VM構成の変更時に、シャットダウンが必要になることがあります。

  • VMのサスペンド

    VMを一時停止します。 次回起動時、作業していたままの状態から作業を再開できます。 なお、VM構成を変更したり、VMのファイルを移動したりした場合、再開できない場合があります。

  • VMのパワーオフ

    VMを強制終了します。 フリーズ等が発生した場合のみ使用してください。

それぞれの手順を説明します。

  • ATDEの電源オフ

    ATDEの右上の電源マークをクリックし、吹き出しの右下の電源マークをクリックします。

    ATDEの電源オフ1

    図7.7 ATDEの電源オフ1


    「電源オフ」を選択すると、ATDEのシャットダウン処理が行われ、VMが終了します。 「再起動」を選択すると、シャットダウン後にパワーオンします。

    ATDEの電源オフ2

    図7.8 ATDEの電源オフ2


  • VMのサスペンド

    通常のWindowsアプリケーション同様、VMwareの右上の「×」ボタン(閉じる)を押すと「仮想マシンの終了方法を指定してください」と出ます。 「サスペンド」を選択してください。

    VMのサスペンド

    図7.9 VMのサスペンド


  • VMのパワーオフ

    「×」ボタン(閉じる)を押し、「パワーオフ」を選択してください(「電源ボタン長押し」に相当)。

7.5. ATDEのネットワーク設定

本章では、ATDEのネットワーク設定について説明します。

VMware PlayerでATDEを実行した場合の、ネットワーク構成は図7.10「ATDEのネットワーク構成」のようになります。 ホストPCとATDEは、同じネットワークに参加している別々のコンピューターとして扱われます。 [45]

ネットワーク構成図

図7.10 ATDEのネットワーク構成


7.5.1. 固定IPアドレス接続の設定

本章では、固定IPアドレスに設定する方法について説明します。 配布時は、DHCPを使用してIPアドレスを自動取得するようになっています。

  1. ATDE左上の「アクティビティ」から「net」と入力し「Network」を起動してください。

    Networkを起動

    図7.11 Networkを起動


  2. 現在のネットワーク設定情報が表示されます。

    Network

    図7.12 Network


  3. 右下の歯車アイコンをクリックすると、有線ネットワーク設定の画面が開きます。

    有線ネットワーク設定

    図7.13 有線ネットワーク設定


  4. ここでは例として、IPv4のネットワーク設定を表7.2「ネットワーク設定例」の値に設定します。

    表7.2 ネットワーク設定例

    項目 設定

    IPアドレス

    192.168.0.10

    ネットマスク

    24 (255.255.255.0)

    ゲートウェイ

    192.168.0.1

    DNS サーバー

    192.168.0.2


    以下のように設定してください。 なお、この画面で「アドレス(A)」の選択を「自動(DHCP)」にするとDHCP設定に戻ります。

    IPv4のネットワーク設定

    図7.14 IPv4のネットワーク設定


  5. 「適用」をクリックして有線ネットワーク設定の画面を閉じます。 Networkの画面で「有線」を(「オン」の場合は一旦「オフ」し)「オン」にすると新しいネットワーク設定が反映されます。
  6. 以上の手順でネットワーク設定は完了です。 Networkの画面を閉じてください。

7.6. ATDEを最新の状態にアップデートする

ATDEの基本的な設定が完了したら、ATDEにインストールされているソフトウェアを最新のものにするため、ソフトウェアアップデートをおこなってください。

端末から以下のコマンドを実行することでソフトウェアアップデートが行えます。

[ATDE ~]$ sudo apt-get update && sudo apt-get upgrade

7.7. 取り外し可能デバイスの使用

VMwareは取り外し可能デバイス(USBデバイス等)をサポートしており、ATDEでUSBメモリー、USB接続のSDカードリーダーや、USBシリアル変換ケーブル等が使用できます。 多くのデバイスは、ホストOSとATDEで同時に使用することができません。 ATDEで使用するためには、ATDEにデバイスを接続する操作が必要になります。

VMwareが起動しているときにPCにUSBデバイスを接続すると、ホストOSとATDEのどちらでデバイスを使用するかを選択するダイアログが出ます。ATDEで使用する場合、「仮想マシンに接続」を選択してください。

USBデバイス接続時のダイアログ

図7.15 USBデバイス接続時のダイアログ


すでにPCに接続されているデバイスをATDEで使用する場合、メニューバーのアイコンを右クリックし、「接続(ホストから切断)」をクリックしてください。

ATDEとUSBデバイスの接続

図7.16 ATDEとUSBデバイスの接続


USBシリアル変換ケーブルは認識されると /dev/ttyUSB0 というデバイスファイルが作られます。 ATDEにはminicomがあらかじめインストールされているため、「Linux PCとのシリアル通信」と同様の手順でArmadilloのコンソールを操作できます。

USBシリアル変換ケーブル

図7.17 USBシリアル変換ケーブル


USBメモリーは接続できると自動的にマウントされ、 /media/atmark/ 以下にディレクトリが作られます。

USBメモリー

図7.18 USBメモリー


7.8. 共有フォルダの設定

ホストである作業用PC上のディレクトリを、ATDEから使用できるようにする設定方法について説明します。

  1. ホストOSに、共有するフォルダをあらかじめ作成(今回は C:\vmshare)
  2. 仮想マシン設定で共有フォルダの設定を開く
  3. 「フォルダの共有」を「常に有効」にする
  4. フォルダの「追加」で名前と共有するフォルダのパスを入力

設定すると画像のようになるので、「OK」で閉じます。

共有フォルダの設定

図7.19 共有フォルダの設定


共有フォルダーは自動的にマウントされ、 /mnt/hgfs/ 以下にディレクトリが作られます。

作成された共有フォルダ

図7.20 作成された共有フォルダ




[43] 個人利用はPUEL(VirtualBox Personal Use and Evaluation License)が適用されており、無料で使用可能

[44] 特権ユーザーでGUIログインを行うことはできません

[45] このような接続方法をブリッジ接続といいます。